塗装した面に、小さなふくらみが見つかることがあります。これは「塗膜のふくれ」と呼ばれる状態です。下で水分や塩分、さびなどが関わっている場合があります。
ただし、ふくれを見ただけで原因を一つに決めることはできません。この記事では、難しい言葉を先に覚えるのではなく、水はどこから来たか/下地に何が残っていたか/塗膜に傷や施工条件の影響がないかという順番で考えます。
- 可溶性塩類:水に溶ける塩分など。下地に残ると、湿った環境で影響する場合があります。
- 塗膜下腐食:塗膜の下で進む腐食のこと。傷や端部から水分が入ると関わる場合があります。
- 浸透圧:塗膜の下に残った成分と水分の関係で、水が集まりやすくなる現象を説明する言葉です。
この3つは、後ほど現場で見える状態に置き換えて詳しく説明します。
さび丸塗装のふくれって、塗料を厚く塗りすぎたせいなの?
ぬり博士厚みや乾燥が関係する場合もあるが、それだけではないんじゃ。まずは、塗膜の下へ何が入り、どこから始まったのかを分けて考えよう。
ふくれは、塗膜が下地から浮いた状態の見え方です。主に、①下地に残った塩分や汚れ、②傷やすきまから入った水、③塗装・乾燥条件を分けて見ます。補修や塗り重ねを急ぐ前に、ふくれの位置、内部の状態、周辺の水の入り方、元の塗装仕様を照らし合わせることが大切です。
塗膜のふくれとは?
塗膜のふくれとは、塗料の膜が下地から部分的に持ち上がり、泡やこぶのように見える状態です。表面が丸く膨らむこともあれば、塗膜をめくると下に水分、白い付着物、さび、素地の露出が見つかることもあります。
塗装面に生じたふくれの大きさと数を、共通の方法で表す試験方法があります。「ASTM D714」です。ここで大切なのは、ASTM D714は見え方をそろえて記録・比較するための方法であり、ふくれを見ただけで原因を決めるものではない、という点です。
「ふくれ=厚塗り」と決められない理由
厚い塗膜、乾燥・硬化の条件、下地処理、塗料の組み合わせ、使用環境は、いずれも塗膜性能に影響します。しかし、同じように見えるふくれでも、起点が違えば対策も変わります。
ふくれたのは、塗料を厚く塗ったからだ。
施工条件が関係する可能性はある。ただし、水分、塩類、下地の汚れ、腐食、塗装系との適合も切り分ける。
まずは、3つの入口に分けて考える
- 下地に残ったもの
塩分、油、ほこり、古いさびなどが残っていると、塗膜が密着しにくくなる場合があります。 - 水の入り口
雨、結露、洗浄水、配管の漏れ、すきまに残る水などを見ます。端部やボルト周りは、特に水が残りやすい場所です。 - 塗膜の状態
傷、端部の塗り残し、塗り重ねや乾燥・硬化の条件などを確認します。
実際には複数の条件が重なっていることもあります。たとえば、小さな傷から水が入り、下地に残った塩分が影響する、といった組み合わせです。
水分はどこから入るのか
水分は雨だけではありません。結露、洗浄水、すきまに残る水、配管からの小さな漏れ、海沿いの湿った空気なども関係します。塗膜に傷や端部、重なり部があると、水分が入り込む経路になる場合があります。
前回の「結露と露点」の記事で扱ったように、空気が乾いて見えても鋼材表面が露点に近い条件では結露することがあります。ふくれを考えるときも、表面に水が見えていたかだけでなく、冷えやすい部位や水が抜けにくい形状を確認します。
可溶性塩類が関わる場合
可溶性塩類とは、水に溶ける塩分などのことです。海沿い・工業地帯では、飛来塩分や洗浄水の成分などが下地に残ることがあります。目では見つけにくい場合があるため、「見た目がきれいだから問題ない」とは言い切れません。
NIST(米国国立標準技術研究所)の技術報告では、鋼材の塗膜にあえて傷をつけ、塩水環境に置く条件で、塗膜の下に水やイオンが移動し、ふくれ・はがれが進む仕組みを検討しています。これは傷と塩水がある実験条件の研究です。すべての現場のふくれを塩分だけで説明する資料ではありませんが、「水と下地の状態を分けて確認する」理由を理解する助けになります。
塩分があると、水を呼び込みやすいことがある
塗膜の下に水に溶ける成分が残ると、湿った環境で水が集まりやすくなることがあります。たまった水が塗膜を内側から押し上げると、ふくれとして見える場合があります。専門的には、こうした現象を「浸透圧に関係するふくれ」と説明します。
ただし、ふくれを見ただけで「塩分が原因」とは言えません。塩類の有無、下地の状態、水にさらされた時間、塗膜の傷などを合わせて見ます。
傷から水が入り、塗膜の下でさびる場合
傷や端部などから水分と酸素が届くと、塗膜の下で腐食が進み、付着が弱くなる場合があります。このとき、ふくれの下に赤さびや黒っぽい腐食生成物が見られることがあります。
査読論文でも、炭素鋼上の防食塗膜を対象に、水や酸素、塗膜の下で生じる成分がふくれやはがれに関わる仕組みが検討されています。これは実験・モデルによる研究であり、現場の原因をそのまま決めるものではありません。この記事では、「傷の近くにふくれやさびがあるなら、水の入り口を確認する」という読み方にとどめます。
ただし、さびが見つかったからといって、最初の原因を腐食と直ちに決めることはできません。先に付着が弱まり、水分が入りやすくなった可能性もあります。順序は、観察結果と施工・使用履歴を合わせて考えます。
塗装後まもなく見つかったとき
塗料の種類や塗り重ね間隔、乾燥・硬化条件によっては、塗膜内に残った溶剤が不具合に関係することがあります。施工直後に現れた場合は、塗料の施工要領にある塗り重ね・乾燥・硬化の条件も確認します。
このタイプは、施工後比較的早い段階で現れることもありますが、時期だけで断定はできません。製品ごとの乾燥条件、塗り重ね可能時間、実際の温湿度・膜厚を確認することが出発点です。
端部・ボルト周り・溶接部で起こりやすい理由
角部やボルト周り、溶接部、重なり部は、塗料が均一に乗りにくかったり、施工後に傷が入りやすかったり、水が残りやすかったりする場所です。ふくれがこうした部位に集中しているなら、平らな面とは分けて形状・端部処理・排水性・局所的な損傷を見ます。
現場で見え方を整理する表
| 見え方・条件 | 考えられる原因 | 注意すべきこと |
|---|---|---|
| 海沿い・湿潤環境で広く小さなふくれ | 塩類、水分、塗膜の連続性 | 塩類だけが原因と断定しない |
| 端部・ボルト周りに集中 | 水の滞留、局所的な傷、膜厚の付き方 | 材料不良だけと決めない |
| 施工後まもなく現れた | 乾燥・硬化、塗り重ね、膜厚、下地状態 | 施工の一要因だけを責めない |
| ふくれの下に腐食生成物がある | 水の侵入経路、付着低下、塗膜下腐食 | 腐食が最初の原因と決めない |
補修前に仕様書へ戻る理由
ふくれた部分を削って塗り直す方法は、状況によって必要になります。しかし、除去範囲、下地処理の方法、乾燥・硬化条件、塗り重ねる塗料の適合は、元の塗装系と発注仕様・メーカー施工要領に左右されます。
特に、原因が塩類や水の侵入経路にある場合、見えているふくれだけを直しても同じ条件が残る可能性があります。補修の範囲と方法は、対象設備の用途・安全手順・担当範囲に沿って判断します。
「削ってすぐ塗る」前に確認したいこと
- ふくれが出た範囲と、周辺の塗膜の状態
- 端部・すきま・排水不良など、水が入る経路
- 下地に塩類、油、ほこり、腐食生成物が残り得る条件
- 採用されている塗料、下地処理、膜厚、乾燥・硬化の指定
- 補修後に同じ水分条件が繰り返されないか
測定や検査の種類・頻度、補修方法は、施工仕様やメーカー施工要領、設備の安全上の取り決めによって変わります。この記事の一般的な説明だけで、個別の施工条件を決めないでください。
さび丸ふくれを見つけたら、すぐ厚塗りが原因だと決めずに、水の入り方と下地の状態をたどるんだね。
ぬり博士その通りじゃ。見え方、下の状態、施工時と使用中の条件をつなげると、次に確認すべきことが整理しやすくなるんじゃよ。
防食塗装を長持ちさせるための考え方
塗装は、金属へ水分や腐食性物質が届きにくくなるよう助ける防食手段です。その性能は、塗料の選定だけでなく、下地処理、施工時の環境、端部の扱い、設備の水の抜け方などを合わせて考えることで活かしやすくなります。
ふくれは、こうした条件のどこかを見直すきっかけになります。原因を一語で片づけず、次の補修や設計に役立つ情報として扱うことが大切です。
まとめ|ふくれを「見た目」から「条件の確認」へ進める
- 塗膜のふくれは、塗膜が下地から浮いた状態の見え方です。
- ふくれを見ただけでは、発生のきっかけを一つに特定できません。
- 水分、可溶性塩類、付着不良、施工条件、塗膜下腐食などを分けて考えます。
- ふくれの場所・内部・発生時期・周囲の水の入り方を照らし合わせます。
- 補修方法は、元の仕様書とメーカー施工要領、設備条件に沿って判断します。
参考資料
- NIST Technical Note 1293: A Mathematical Model of Cathodic Delamination and Blistering Processes in Paint Films on Steel(鋼材塗膜・傷・電解質を対象にした公開技術報告)
- Effendy et al., Blistering Failure of Elastic Coatings with Applications to Corrosion Resistance, Soft Matter, 2021, DOI: 10.1039/D1SM00986A(査読・オープンアクセス論文)
- ASTM D714-25: Standard Test Method for Evaluating Degree of Blistering of Paints(ふくれの見え方を評価する試験方法)
- Hempel Technical Guideline: Inspection prior to painting(施工前の確認項目を読むためのメーカー補助資料)
