角部・ボルトまわりはなぜ錆びやすい?塗装の「先行塗り(ストライプコート)」を初心者向けに解説

塗装した直後はきれいでも、角部やボルトの根元だけ先に傷んだように見えることがあります。これは「塗料が悪い」と一言で決められる話ではありません。平らな面とは違い、角・溶接部・ボルトまわりは塗料が届き方や厚みをそろえにくい形だからです。

この記事では、そうした細部を補助する先行塗り(ストライプコート)を、現場で想像できる言葉に置き換えて解説します。

今回のキーワード
  • 先行塗り(ストライプコート):全体を塗る前に、角部やボルトまわりなどへ追加で行う塗装です。
  • 角部:鋼材の角や端。平らな面と比べて、塗料が均一に付きにくい場合があります。
  • 塗膜の厚み:乾いた後の塗膜の厚さ。必要な値や確認方法は、塗料と施工仕様によって変わります。

この3つの言葉を先に押さえると、先行塗りが必要になる場面を読み進めやすくなります。

さび丸さび丸

全体を塗ったのに、なぜ角やボルトの周りから先に傷むことがあるの?

ぬり博士ぬり博士

平らな面と同じように塗料が乗るとは限らないからじゃ。形が複雑な所を先に補助する考え方が、先行塗りなんじゃよ。

まず結論

角部、溶接部、ボルト・ナットの周辺は、塗料の付き方や厚みが均一になりにくい場所です。先行塗りは、施工仕様で求められる場合に、全体塗装の前にその細部へ追加で塗って、塗り残しや薄い部分を減らすための工程です。全体塗装の代わりではありません。必要な範囲・回数・塗料は、案件の施工仕様と塗料メーカーの施工要領で判断します。

角部・ボルトまわりが気になる理由

鋼材の角、溶接の止端、ナットの側面、ボルトの根元は、平らな板に比べて面の向きが急に変わります。全体を塗装するときも、その形状のすみずみまで塗料が行き渡り、同じ厚さで残るとは限りません。

水分や塩分が入りやすい環境では、塗膜に薄い部分や連続していない部分があると、金属を腐食環境から隔てる役割が弱まり得ます。AMPPも、防食塗装を金属と腐食環境の間に置く保護層として説明しています。

先行塗り(ストライプコート)とは

先行塗りは、全体を塗る前に、エッジ・溶接部・ボルトやナットなどの塗りにくい場所へ、筆などで追加して塗る工程です。英語の stripe coating は、細部に帯状に補助塗りをするイメージから来た呼び方です。

「筆で仕上げるための装飾」ではなく、指定された塗膜の厚みや被覆を得やすくするための補助と考えると分かりやすいでしょう。

「全体を塗れば同じ厚み」は成り立つ?

平らな面

塗装の向きや距離が安定しやすく、比較的均一な塗りを作りやすい場所です。

角・ボルト・溶接部

面の向きや凹凸が変わり、影になる部分もあるため、同じ一回の塗装だけで十分かは別に考える必要があります。

ここで大切なのは、見た目だけで「塗れている」と決めないことです。どこまで補助するかは、塗装系・目標膜厚・施工要領で変わります。

乾燥膜厚(DFT)をやさしく言うと

乾燥膜厚は、塗料が乾いて固まったあとに残る塗膜の厚みです。防食塗装では、どのくらいの厚みを目標にするかが、塗装仕様に書かれていることがあります。

ここでいう「厚いほどよい」は正確ではありません。薄すぎれば保護性能が不足するおそれがあり、必要以上に厚くすれば、塗料によっては乾燥や仕上がりに影響する場合があります。数値や判定は、指定された塗料と仕様書に従います。

Hempelの技術資料が伝えること

塗料メーカーHempelの技術ガイドでは、ストライプコートの対象として、エッジ、溶接部、ファスナー、ボルト・ナット、手が届きにくい不規則な箇所を挙げています。また、これは指定膜厚を得るための良い塗装実務であり、全体の塗装工程を置き換える工程ではない、と説明されています。

資料を現場の言葉にすると

「全体を塗ったから細部も同じ」とは考えず、細部は細部として補助する必要がある場合がある、ということです。ただし、Hempelの資料は一般的な技術ガイドです。実際に使う塗料の製品要領や案件仕様と照らして扱います。

航空燃料タンク仕様にある実例

英国政府の航空燃料タンク内面塗装の仕様書には、角・エッジ・溶接部・ナット・ボルトでの乾燥膜厚が塗膜の耐用性に大きく関係する、という趣旨の記載があります。同じ仕様では、最小膜厚を得るためにブラシでのストライプコートを求めています。

これはあくまで航空燃料タンクという限定された設備の仕様です。一般の鋼構造物にそのまま同じ条件を当てはめるものではありません。一方で、細部の膜厚を意識する必要があることを具体的に示す専門資料として参考になります。

塗りにくい場所の代表例

  • 鋼材の角部、切断端部
  • 溶接ビードと、その境目
  • ボルト・ナットの側面と根元
  • フランジの外周、すき間の近く
  • 補強材や架台の内側など、吹き付けの死角になりやすい部分

同じ部材でも、屋内・屋外、海からの距離、薬品の有無、使用する塗料で注意点は変わります。

配管支持架台で考える

例えば配管支持架台では、平らな梁の面と、ボルトで締結されたプレートの周辺が一緒にあります。広い面を塗り終えても、ナットの影や根元、プレートの角は、塗料が届きにくい形になりがちです。

そのため施工仕様に先行塗りの指定があれば、全体塗装の前に対象箇所へ塗料をなじませます。「さびやすいから筆を入れる」というより、仕様で求められる被覆を細部でも得やすくするため、と理解する方が正確です。

筆を使うときに覚えておきたいこと

筆は、ボルト・ナットの側面や凹凸へ塗料を入れやすい道具です。一方、どの筆・どの塗り方が適するかは塗料によります。Hempelのガイドも、筆によって細部へのぬれや充填を助けられる一方、過大な膜厚にならないよう注意が必要だとしています。

現場で独自の方法を決めるのではなく、使用塗料の施工要領、塗装系の仕様、必要なら施工管理者の指示を確認するのが安全です。

先行塗りは全体塗装の代わりではない

ここは誤解しやすい点です。先行塗りは細部を補助する工程で、広い面を含む全体の塗装工程を省略する意味ではありません。メーカーの技術資料でも、ストライプコートは全体の塗装工程を補助するものとして説明されています。

細部を先に補助し、その後に全体を計画どおり塗る。こうして初めて、部材全体を一つの塗装系として考えられます。

先行塗りの対象はいつ決まる?

対象箇所、塗る回数、使う塗料、乾燥時間は、一般論だけでは決まりません。発注者の仕様書、塗装仕様、塗料メーカーのデータシート・施工要領などが判断の軸になります。

つまり「ボルトは必ず何回」といった一律のルールをこの記事だけで作ることはできません。実際の部材と指定条件を確認して初めて、必要な工程が見えてきます。

現場で見分けるときの観点

見る場所なぜ気になるか確認先の例
角部・切断端部塗膜が均一に残りにくいことがある塗装仕様、施工要領
溶接部凹凸や境目があり、塗り方の影響を受けやすい施工要領、検査基準
ボルト・ナット側面・根元・影になる部位がある案件仕様、メーカー資料
フランジまわり形状に加え、すき間や水分の影響も考える場合がある防食仕様、設備条件

「厚く塗れば安心」だけではない

細部を補助する話をすると、たくさん塗ればよいように聞こえるかもしれません。しかし、適切な塗膜の考え方は製品ごとに異なります。過度な厚塗りが問題になる塗料もあります。

大切なのは、平面と細部の差を理解したうえで、仕様に定められた塗装系に合わせることです。判断に迷う場合は、メーカーの技術資料や施工要領を確認します。

さび丸さび丸

先行塗りは「筆でたくさん塗ればOK」ではないんだね。

ぬり博士ぬり博士

その通り。細部を補助する目的と、使う塗料の決まりを、セットで考えるんじゃ。

ケレンとのつながり

先行塗りで細部を丁寧に扱っても、その下に油分、さび、古い劣化塗膜が残っていれば、塗料が本来の性能を発揮しにくくなります。塗装前の表面をどう整えるかは、先行塗りとは別に大切なテーマです。

ケレンは、見た目をきれいにするだけでなく、塗料が密着しやすい下地を整えるための工程です。詳しくは下の内部リンクも参照してください。

フランジのすき間腐食とのつながり

フランジの周辺では、外側の塗膜だけでなく、すき間に水分や塩分が滞留する条件も腐食に関わることがあります。先行塗りは複雑形状への被覆を補助する考え方であり、すき間腐食の原因を単独で解決するものではありません。

腐食の原因を一つに決めつけず、形状、環境、表面処理、塗装仕様を分けて考えることが、防錆を理解する近道です。

まとめ:細部にも「塗料が届く」理由を考える

この記事の要点
  • 角部、溶接部、ボルト・ナットの周辺は、平面と同じように塗料が付きにくい場合があります。
  • 先行塗り(ストライプコート)は、仕様で求められる場合に細部を補助する工程です。
  • 先行塗りは全体塗装の代わりではありません。
  • 対象、回数、塗料、判定は、施工仕様とメーカーの施工要領で異なります。
  • 「厚くすれば安心」と一律に考えず、塗料ごとの条件を確認します。
施工条件に関する注意

この記事は、防食塗装の考え方を初心者向けに説明したものです。実際の施工では、塗料メーカーの施工要領、発注仕様、対象設備の条件を優先してください。本文で紹介した航空燃料タンクの資料は、その分野の仕様例であり、すべての現場に同じ条件を求めるものではありません。

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